fc2ブログ

FC2カウンター

プロフィール

大海 奏

Author:大海 奏
さて、どこへ行こうか。

twitter

リンク

サーチ&素材

 NEO HIMEISM

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

お気軽にどうぞ♪

QRコード

QRコード

春、遠からじ

「晴明[はるあき]、手伝って」
 姉に呼ばれて、晴明が階下に下りると、雛壇が用意されていた。晴明は目を瞬く。そして、気がついた。
「今日は雨水[うすい]だっけ」
 姉が、そうよ、と頷く。
 雨水は二十四節気のひとつで、空から降るものが雪から雨に変わり、草木が芽生え始める頃とされている。そして、この日に雛人形の飾り付けをすると、良縁に恵まれると言われている。
「雛飾り作るの手伝ってね」
「うん。手袋、どこ?」
「はい」
「ありがと」
 姉から白の手袋を受け取り、人形の入った箱を開けた。入っていたのは、左大臣だった。慎重に取り出して、烏帽子などを身につけさせ、四段目に置く。姉の雛人形は七段飾りだ。毎年、飾りを手伝っているおかげで人形の配置は完璧に覚えた。
「晴明、これそっちに置いてくれる?」
「ん」
 姉と二人、てきぱきと飾り付けをしていく。
 1時間ほどで全ての飾り付けが終わった。全体を眺めていた姉が満足そうに頷く。
「これでよし、と。晴明、ありがとうね」
「どういたしまして」
 飾り方忘れてなくて良かったよ、と晴明は笑った。
 春がもう直ぐそこまで来ている。

〈了〉
スポンサーサイト



冬の朝

 雨戸を開けると、冷たい空気が流れ込んでくる。晴明[はるあき]は、さむ、と呟いて身を震わせた。
 その彼の足元に、するりと近づいた影がある。
「今日も寒いわね」
 晴明は視線を落とし、笑った。
「そうだね。おはよう、風花[ふうか]さん」
「ええ、おはよう、晴明」
 挨拶を返して晴明を見上げてくるのは、一匹の猫だった。
 雪のように白い毛並みをしていて、ピンと張った三角の耳は形がいい。けれど、なにより目を惹かれるのは、色違いの瞳だ。右目が金、左目は銀。晴明はいつもこの瞳を綺麗だと思う。
 彼女は、安倍家に憑く猫又だ。
「いつも思うけど、風花さんて寒さに強いよね」
 晴明が首を傾げれば、風花の瞳が面白そうに笑む。そうして、人間のように小首を傾げた。
「そうでもないわよ? 寒いのは好きじゃないもの」
 だから、早く閉めてくれると嬉しいわね、と言われたので、晴明は素直に窓を閉めた。それから、足元の猫を抱き上げる。外気に晒された体が冷たかったので、腕の中に抱き込んだ。風花が目を細める。
「温かいわ」
「でしょ?」
「ええ。ところで晴明」
「なに?」
「晴音[はるね]が、朝ごはんが出来た、て言ってたわよ」
 その言葉に、晴明が目を瞠る。
「そういうことは早く言って!」
 姉さんに怒られる! と慌てる晴明の様子に、風花は楽しげに喉を鳴らしたのだ。

 〈了〉

遠い日の話

 彼は、覚えていた。
 父と母、姉、そして祖父。家族が皆、そのことを受け入れてくれたから、それが当たり前だと思っていた。
 けれど。それは決して、当たり前のことではなかったのだ。
 ――いいかい、晴明[はるあき]。
 幼い彼に、穏やかな祖父の声が教えてくれた。
 ――お前のように、記憶を持っている人は珍しいんだよ。
 ――……みんな、おぼえていないの?
 ――そうだ。だから。
 そうして、覚えていることを簡単に人に言ってはいけないよ。
 それが、お前を守ることになる。
 彼の頭を撫でながら、ゆっくりと紡がれた言葉たちはひとつひとつ、彼の心に落ちていく。
 その言霊は、優しく、そして心配に満ちていて。
 幼いながらにそれらを感じた彼は、うん、と素直に頷いたのだ。

| ホーム |


 BLOG TOP